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在宅医療薬剤師訪問薬剤管理指導高齢化

在宅医療と薬剤師:訪問薬剤管理指導の実際と今後の展望

はじめに

日本の高齢化率は2025年に約30%に達し、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が現実のものとなりました。通院が困難な患者が増加する中、在宅医療における薬剤師の役割がかつてないほど注目されています。

しかし、在宅医療に対応している薬局は全体の約**43.6%**にとどまっています。本記事では、在宅薬剤師の業務と可能性について詳しく解説します。


在宅医療における薬剤師の位置づけ

なぜ在宅に薬剤師が必要なのか

在宅で療養する患者は、以下のような薬に関する課題を抱えがちです。

  • 多剤併用:複数の疾患を持ち、多くの薬を服用している
  • 服薬管理の困難:認知症や身体機能の低下で自己管理が難しい
  • 残薬の蓄積:飲み忘れにより大量の残薬が発生
  • 副作用の見逃し:通院頻度が低く、副作用が発見されにくい
  • 介護者の負担:薬の管理が家族の大きな負担に

これらの課題は、医師や看護師だけでは十分に対応できません。薬の専門家である薬剤師が自宅を訪問することで、きめ細かなサポートが可能になります。


訪問薬剤管理指導の制度

2つの報酬体系

在宅での薬剤師の活動には、2つの報酬体系があります。

制度根拠法対象点数
在宅患者訪問薬剤管理指導料医療保険(調剤報酬)在宅療養中の患者650点/回
居宅療養管理指導費介護保険要介護・要支援の在宅患者517〜565単位/回

どちらの制度を利用するかは、患者の状態や利用する保険によって異なります。

算定要件の概要

訪問薬剤管理指導を行うには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 医師の指示:主治医から訪問薬剤管理指導の指示を受けていること
  2. 薬学的管理指導計画の策定:患者ごとの指導計画を作成
  3. 訪問の実施:患者の自宅を訪問し、薬学的管理・指導を実施
  4. 報告書の作成:訪問結果を主治医に文書で報告
  5. 薬剤服用歴の記録:訪問内容を薬歴に記載

2024年度改定での変更点

2024年度の調剤報酬改定では、在宅医療に関していくつかの見直しが行われました。

  • 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料の要件見直し
  • 情報通信機器を用いた服薬指導との組み合わせ
  • 在宅協力薬局の仕組み整備

訪問薬剤管理指導の実際の業務

1. 残薬の確認と整理

在宅訪問で最も多く遭遇するのが残薬の問題です。

引き出しやテーブルの上に大量の薬が散乱していることは珍しくありません。薬剤師は以下の作業を行います。

  • 残薬の種類と量の確認
  • 期限切れ薬の廃棄
  • 残薬を活用した処方日数の調整提案(処方医に報告)
  • 保管状況の改善提案(温度管理が必要な薬など)

残薬調整だけでも、患者の自己負担軽減と医療費削減に大きく貢献します。

2. 服薬支援の工夫

患者の状態に合わせた服薬支援を行います。

一包化 朝・昼・夕・就寝前など、服用タイミングごとに薬を1袋にまとめます。「どの薬をいつ飲むか」を考える必要がなくなるため、飲み忘れや飲み間違いを大幅に減らせます。

服薬カレンダー 壁掛けやテーブル置きのカレンダーに、日ごと・時間帯ごとにポケットが付いたもの。視覚的に「飲んだかどうか」がわかります。

お薬ボックス 曜日と時間帯で仕切られたケースに薬をセットします。

嚥下困難への対応 錠剤が飲めない患者には、粉砕・脱カプセル・ゼリー服用の提案、剤形変更の処方医への提案などを行います。

3. 副作用モニタリング

定期的な訪問により、以下のような副作用の早期発見が可能です。

  • ふらつき・めまい:降圧薬、睡眠薬などの影響
  • 食欲不振・嘔気:NSAIDs、抗がん剤などの消化器症状
  • 口腔乾燥:抗コリン薬、利尿薬などの影響
  • 浮腫:カルシウム拮抗薬、NSAIDsの影響
  • 皮膚症状:薬疹の早期発見

発見した副作用は主治医に報告し、処方変更や減薬を提案します。

4. 多職種との情報共有

在宅医療はチーム医療です。薬剤師は以下の多職種と連携して患者をサポートします。

職種連携内容
主治医処方に関する情報提供、減薬提案、副作用報告
訪問看護師服薬状況の共有、副作用症状の観察依頼
ケアマネジャーサービス担当者会議への参加、ケアプランへの反映
介護士(ヘルパー)服薬介助の方法指導、残薬の情報共有
管理栄養士食事と薬の相互作用(グレープフルーツ等)に関する情報共有

地域連携薬局の認定には、こうした多職種連携の実績が求められます。


在宅医療を始めるには

薬局としての体制構築

在宅医療に対応するには、以下の準備が必要です。

  1. 届出:在宅患者訪問薬剤管理指導の届出(地方厚生局へ)
  2. 人員確保:訪問に出る薬剤師の確保(店舗に残る薬剤師も必要)
  3. 移動手段:車・バイク・自転車など(地域による)
  4. 携帯品の整備:一包化用のハサミ、服薬カレンダー、血圧計、パルスオキシメーターなど
  5. 24時間対応体制:緊急時の電話相談体制(かかりつけ薬剤師の要件とも重なる)

最初の一歩

在宅医療にまだ取り組んでいない薬局は、以下のステップで始められます。

  1. 地域のケアマネジャーに挨拶:「在宅で薬の管理が必要な方がいたらご紹介ください」と伝える
  2. かかりつけ患者から始める:通院が困難になってきた患者に訪問を提案
  3. 退院時カンファレンスに参加:病院からの退院患者を引き受ける
  4. 地域包括支援センターとの連携:地域の在宅医療ネットワークに参加

経営面の課題と対策

在宅訪問は移動時間や報告書作成に時間がかかり、外来対応と比較すると効率が低いのが実情です。しかし、以下の点を考慮すると経営的にも意義があります。

  • 訪問薬剤管理指導料650点は、1回あたりの報酬としては決して低くない
  • 継続的な訪問により安定した報酬が見込める
  • 地域支援体制加算の算定に在宅実績が必要
  • 地域での信頼向上による処方箋の増加

テクノロジーの活用

オンライン服薬指導との併用

すべての訪問を対面で行う必要はありません。状態が安定している患者に対しては、対面訪問とオンライン服薬指導を組み合わせることで、効率的なフォローが可能です。

電子お薬手帳の活用

電子お薬手帳を活用することで、訪問時にスマートフォンで患者の全処方履歴を確認できます。紙のお薬手帳を探す手間が省け、情報の正確性も向上します。

服薬フォローアップの自動化

訪問と訪問の間に、LINEやSMSを通じた服薬フォローアップを行うことで、継続的なモニタリングが可能です。「体調に変化はありませんか?」「お薬は問題なく飲めていますか?」といったメッセージを定期的に送信します。


今後の展望

需要の拡大は確実

高齢化の進行に伴い、在宅医療の需要は今後も確実に拡大します。国立長寿医療研究センターも、多職種連携推進のための在宅患者訪問薬剤管理指導ガイドを公開し、薬剤師の在宅参入を後押ししています。

薬局の差別化要因に

2025年薬機法改正によるOTC販売の規制緩和を受け、薬局には対面でしか提供できない専門的サービスがより求められます。在宅医療への対応は、まさにその代表格です。

AIとの連携

AIエージェントの進化により、訪問記録の自動作成、処方提案の支援、スケジュール最適化など、在宅薬剤師の業務を支援するテクノロジーの登場が期待されています。


まとめ

在宅医療における薬剤師の役割は、残薬管理から副作用モニタリング、多職種連携まで多岐にわたります。対応している薬局はまだ半数以下ですが、高齢化の進行とともに需要は確実に拡大します。

「まだ始めていない」薬局こそ、今が在宅医療に踏み出す好機です。地域の患者のために、そして薬局の持続的な成長のために、在宅医療への一歩を踏み出してみてください。


参考リンク