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ポリファーマシー高齢者医療薬剤師厚生労働省

ポリファーマシーとは?高齢者の多剤併用問題と薬剤師の役割

はじめに

「薬が多すぎて、どれが何の薬かわからない」——高齢の患者さんからよく聞かれる言葉です。複数の疾患を抱える高齢者は、それぞれの疾患に対して薬が処方され、結果として5種類、10種類、時には15種類以上の薬を服用しているケースがあります。

このような多剤併用に伴う様々な問題をポリファーマシーと呼びます。本記事では、厚生労働省のガイドラインや最新の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」をもとに、ポリファーマシーの問題と薬剤師の役割を解説します。


ポリファーマシーの定義

単なる「薬が多い」ことではない

ポリファーマシーは、単に服用する薬の数が多いことを指すのではありません。厚生労働省の定義では、多剤併用を背景に、さまざまな有害事象につながる状態をポリファーマシーと呼びます。

つまり、10種類の薬を飲んでいても、すべてが必要で副作用もなければポリファーマシーとは言いません。逆に、5種類でも不要な薬が含まれ、副作用が出ていればポリファーマシーです。

数の目安

とはいえ、薬の数が多いほどリスクは高まります。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」では以下の知見が示されています。

  • 入院患者:6種類以上の薬物併用で有害事象のリスクが上昇
  • 外来患者:5種類以上の薬物併用群で転倒の発生率が高い
  • 目安:5〜6種類以上を多剤併用の目安と考えることが妥当

ポリファーマシーのリスク

1. 薬物有害事象(副作用)の増加

薬の数が増えるほど、薬物相互作用のリスクが指数関数的に増加します。

併用薬数相互作用の組み合わせ数
3種類3通り
5種類10通り
8種類28通り
10種類45通り

高齢者は肝臓・腎臓の機能が低下しているため、薬の代謝・排泄が遅くなり、副作用が出やすくなります。

2. 処方カスケード

副作用を新たな疾患と誤認して別の薬が処方される「処方カスケード」も深刻な問題です。

例:

  1. 高血圧の薬(カルシウム拮抗薬)を処方 → 足のむくみが副作用として出現
  2. むくみを別の病気と判断 → 利尿薬を追加処方
  3. 利尿薬で電解質異常 → さらに別の薬を追加…

こうして薬がどんどん増えていく悪循環が生まれます。

3. 服薬アドヒアランスの低下

薬の数が増えると、飲み忘れや飲み間違いが増えます。特に以下の要因が重なると深刻です。

  • 1日の服用回数が多い(朝・昼・夕・就寝前)
  • 薬の形状が似ている
  • 認知機能が低下している
  • 一人暮らしで管理を手伝う人がいない

4. 医療費の増加

不要な薬が漫然と処方され続けることは、患者の自己負担だけでなく、国の医療費にも影響します。


ポリファーマシーが生まれる原因

複数の医療機関の受診

高齢者は内科・整形外科・眼科・皮膚科など複数の医療機関を受診することが多く、各医師が独立して処方するため、全体を把握している人がいないという問題があります。

処方の慣性

「ずっと飲んでいるから」「やめて悪化したら困る」という理由で、効果が不明確な薬が漫然と継続される「処方の慣性」が働きます。

患者側の心理

「薬をもらわないと診てもらった気がしない」「せっかく来たから薬を出してほしい」という患者側の心理も、処方薬の増加を助長します。

ガイドラインの積み上げ

各疾患のガイドラインに従って処方すると、複数の疾患を持つ高齢者ではガイドライン同士が「積み上がって」薬が増えるという構造的な問題があります。


厚生労働省のガイドラインと対策

高齢者の医薬品適正使用の指針

厚生労働省の「高齢者医薬品適正使用検討会」では、「高齢者の医薬品適正使用の指針」を策定しています。

総論編(2018年策定)

  • 多剤服用の中でも害をなすもの(ポリファーマシー)への対応
  • 処方見直しのプロセス(処方の適正化スクリーニング→評価→対応)

各論編(追加策定)

  • 療養環境別(外来・入院・介護施設等)の留意点
  • 具体的な薬効群ごとの注意点

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025

日本老年医学会が約10年ぶりに改訂した本ガイドラインでは、以下が盛り込まれています。

  • 特に慎重な投与を要する薬物リスト(STOPP-J):高齢者で副作用リスクが高い薬物のリスト
  • 開始を考慮すべき薬物リスト(START-J):逆に、高齢者で使用が推奨される薬物のリスト
  • 処方見直しのプロセス:厚労省指針に基づく具体的な手順

病院・地域でのポリファーマシー対策

厚生労働省は「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の手引きを公開し、組織的な取り組みを推進しています。


薬剤師が果たすべき役割

1. 処方の「全体像」を把握する

かかりつけ薬剤師として、患者が服用しているすべての薬(処方薬・OTC医薬品・サプリメント)を把握することが第一歩です。お薬手帳の確認はもちろん、患者への丁寧なヒアリングが不可欠です。

2. 処方見直しの提案

以下のチェックポイントで処方を評価し、必要に応じて処方医に減薬・変更を提案します。

  • 効果が不明確な薬はないか:漫然と継続されている薬
  • 同効薬の重複はないか:複数の医療機関から同じ効果の薬が出ていないか
  • 副作用が疑われる症状はないか:ふらつき、食欲不振、便秘、口渇など
  • 非薬物療法で代替できないか:運動、食事、生活習慣の改善
  • 服用を簡素化できないか:配合剤への切り替え、服用回数の削減

3. 残薬の確認と管理

在宅訪問時やお薬手帳の確認時に、**残薬(飲み残し)**がないかを確認します。残薬の存在は、アドヒアランスの低下や不要な薬の存在を示すサインです。

4. テクノロジーの活用

Reimei で医薬品の供給情報を確認しながら代替薬を検討したり、電子お薬手帳のデータを活用して処方の全体像を把握するなど、デジタルツールの活用が処方見直しの精度を高めます。


患者・家族ができること

お薬手帳を1冊にまとめる

複数の医療機関を受診していても、お薬手帳は必ず1冊にまとめましょう。すべての処方情報が1か所に集約されていれば、薬剤師や医師が全体を把握しやすくなります。

「薬が多い」と感じたら相談する

遠慮せず、かかりつけ薬剤師に「薬が多くて大変」「この薬は本当に必要?」と相談しましょう。薬剤師はその相談を受けて、処方医と連携して処方の見直しを進めます。

自己判断でやめない

「薬が多いから」と自己判断で薬を減らしたり、やめたりするのは危険です。必ず薬剤師や医師に相談してから、段階的に減薬するようにしてください。


まとめ

ポリファーマシーは、高齢化が進む日本において避けて通れない課題です。単に「薬を減らす」のではなく、一人ひとりの患者にとって最適な薬物療法を実現することが目標です。

薬剤師は、処方の全体像を把握できる唯一の医療専門職として、ポリファーマシー対策の中心的な役割を担っています。かかりつけ薬剤師制度地域連携薬局の活用と合わせて、患者の安全な薬物療法に貢献していきましょう。


参考リンク