地域フォーミュラリーとは?薬局経営と医療費適正化への影響を解説
はじめに
「フォーミュラリー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。地域の医療機関や薬局が連携して推奨医薬品のリストを作成し、処方の標準化を図る取り組みです。
医療費の適正化と医薬品の安定供給が求められる中、フォーミュラリーは国策としても推進されています。本記事では、薬局・薬剤師の視点からフォーミュラリーの意義と実務への影響を解説します。
フォーミュラリーとは
定義
フォーミュラリー(Formulary)とは、疾患ごとに、有効性・安全性・経済性のエビデンスに基づいて策定された推奨医薬品リストです。
もともとは欧米の病院で広く使われてきた仕組みで、日本でも近年、病院内(院内フォーミュラリー)や地域単位(地域フォーミュラリー)での導入が進んでいます。
フォーミュラリーの種類
| 種類 | 範囲 | 策定主体 |
|---|---|---|
| 院内フォーミュラリー | 1つの医療機関 | 病院の薬事委員会 |
| 地域フォーミュラリー | 地域全体(二次医療圏等) | 地域の医師会・薬剤師会等 |
具体的な内容の例
例えば「高血圧症に対するARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」のフォーミュラリーでは、以下のように推奨順位が示されます。
- 第1推奨:オルメサルタン錠(後発品、供給安定、エビデンス豊富)
- 第2推奨:テルミサルタン錠(後発品、供給安定)
- 第3推奨:カンデサルタン錠(供給がやや不安定なため代替として)
なぜフォーミュラリーが必要なのか
1. 後発医薬品の使用促進
国は後発医薬品の使用率を80%以上に引き上げる目標を掲げています。フォーミュラリーにより、エビデンスに基づいた後発医薬品の選択が促進されます。
2. 医薬品の安定供給
医薬品供給不足が続く中、フォーミュラリーで推奨する医薬品を供給が安定しているものに絞ることで、地域全体での在庫効率化が図れます。特定の医薬品に需要が集中するのを防ぎ、供給不足のリスクを分散させる効果もあります。
3. 処方の質の標準化
医師によって処方傾向が異なることは珍しくありません。フォーミュラリーにより、地域の医療がエビデンスに基づいて標準化されます。
4. 医療費の適正化
薬効が同等であれば、より経済的な医薬品を推奨することで、患者の自己負担と国の医療費の両方を削減できます。
国の推進方針
厚生労働省の取り組み
厚生労働省は、地域フォーミュラリーの活用を推進する通知を発出し、地域単位での「疾患別の推奨医薬品リスト」の作成・運用を求めています。
第4期医療費適正化計画(2024年度〜)においても、フォーミュラリの活用が医療費適正化の手段として明記されています。
全国の取り組み状況
フォーミュラリーの導入は全国で広がっています。
大阪府
- 大阪府薬剤師会が地域フォーミュラリガイドライン ver1.0を策定(2024年)
- 八尾市・天王寺区・高槻市で先行実施、2027年までに全二次医療圏での実施を目標
広島県
- 広島県が地域フォーミュラリの取組を推進
- 県内の複数地域で実施中
徳島県
- 地域フォーミュラリ作成マニュアルを公開
戸田中央メディカルケアグループ(TMG)
- グループ全体でフォーミュラリーを策定・公開
薬局にとっての影響
メリット
在庫管理の効率化
地域でフォーミュラリーが運用されると、処方される医薬品の種類が絞られるため、薬局の在庫管理が効率化されます。
- 品目数の削減 → 在庫コストの低減
- 需要予測の精度向上 → 欠品リスクの低減
- 同一品目の取り扱い量増加 → 卸との交渉力向上
疑義照会の減少
フォーミュラリーに沿った処方が増えることで、「なぜこの薬が処方されているのか」という疑問が減り、疑義照会の件数が減少する傾向があります。
後発医薬品の使用率向上
地域支援体制加算の算定に必要な後発医薬品の使用率目標を達成しやすくなります。
注意点
処方権は医師にある
フォーミュラリーはあくまで「推奨」であり、処方権は医師にあります。患者の個別の状態に応じて、フォーミュラリーに記載のない薬が処方されることは当然あり得ます。
供給状況に応じた柔軟な対応
フォーミュラリーで推奨されている薬であっても、供給不足が生じた場合は代替薬への切り替えが必要です。フォーミュラリーは定期的に見直し、供給状況を反映させる運用が求められます。
薬剤師の役割
フォーミュラリー策定への参画
薬剤師は、フォーミュラリー策定において以下の役割を果たせます。
- 医薬品情報(DI)の提供:有効性・安全性のエビデンス収集
- 経済性の評価:薬価、後発品の有無、費用対効果の分析
- 供給安定性の評価:メーカーの供給状況、代替品の確保可能性
- 現場の知見の提供:患者の服用感、剤形の使いやすさなど
処方提案
フォーミュラリーに基づいて、処方医に対してエビデンスに裏付けられた処方変更の提案ができます。「フォーミュラリーでの推奨」という根拠があることで、提案のハードルが下がります。
患者への説明
後発医薬品への変更に不安を感じる患者に対して、「地域の医師と薬剤師が協議して、効果と安全性を確認した上で推奨している薬です」と説明することで、安心感を提供できます。
テクノロジーとフォーミュラリー
デジタルフォーミュラリー
紙やPDFのフォーミュラリーから、電子カルテや調剤システムに組み込まれたデジタルフォーミュラリーへの移行が進んでいます。処方時にリアルタイムで推奨薬が提示されることで、フォーミュラリーの実効性が大幅に向上します。
AI活用の可能性
AI技術を活用して、処方データの分析やフォーミュラリーの自動更新を行う取り組みも始まっています。供給状況の変化に応じて推奨薬を自動的に更新するシステムが実現すれば、よりタイムリーなフォーミュラリー運用が可能になります。
まとめ
地域フォーミュラリーは、エビデンスに基づく医療の標準化、医療費の適正化、医薬品供給不足への対応を同時に実現する有力な手段です。国が推進を明確にしている以上、今後ますます広がることは間違いありません。
薬剤師は、フォーミュラリーの策定に積極的に参画し、医薬品の専門家としての知見を提供することで、地域医療の質の向上に貢献できます。