医薬品供給不足の現状と薬局での対応策【2026年最新】
はじめに
日本の医療現場において、医薬品の供給不足は2020年以降、最も深刻な課題のひとつとなっています。ジェネリック医薬品メーカーの品質不正問題をきっかけに始まった供給不安は、2026年現在もなお完全には収束していません。
本記事では、厚生労働省の最新データや業界の動向をもとに、供給不足の現状を正確に整理し、薬局現場でできる具体的な対応策を解説します。
医薬品供給不足の現状
数千品目に及ぶ限定出荷・供給停止
厚生労働省は、医療用医薬品の供給状況を定期的に調査・公表しています。厚生労働省の医薬品供給状況報告ページによれば、限定出荷または供給停止となっている医薬品は依然として数千品目にのぼります。
2025年8月時点の調査では供給状況は「相当程度改善してきている」とされるものの、成分・製品によって状況は大きく異なり、完全な正常化には至っていません。
影響を受ける薬剤の範囲
当初はジェネリック医薬品が中心でしたが、現在では以下のように広範囲に影響が及んでいます。
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン等):感染症流行期に需要が急増
- 咳止め・去痰薬:冬季に慢性的な供給不足
- 抗菌薬:一部の経口抗菌薬で限定出荷が継続
- 精神科用薬:一部の抗てんかん薬・抗不安薬で供給不安定
- 漢方薬:原料生薬の調達難で一部品目が限定出荷
厚生労働省の行動計画
厚生労働省は医療用医薬品の供給問題への対応に係る行動計画(令和7年9月25日)を策定し、以下の柱で対策を進めています。
- 報告・モニタリング制度の強化:薬機法改正により、限定出荷・供給停止時の報告を義務化
- 安定確保リストの対象拡大:希少疾病治療薬や中国依存度が高い原薬を含む品目を追加(日本経済新聞報道)
- 電子処方箋データの活用:社会保険診療報酬支払基金が管理するデータで需給状況を分析
- 2026年度薬価制度改革:長期収載品から後発品へのシフト推進と、医療上必要な医薬品の安定供給を両立
供給不足が起きる構造的原因
1. 製造品質問題と連鎖的影響
2020年12月、小林化工による睡眠導入剤成分の混入事件が発覚。続いて日医工、長生堂製薬など複数のジェネリックメーカーで品質管理の不備が判明し、業務停止命令が相次ぎました。
一社が製造停止すると、同一成分の他メーカーに需要が集中します。その結果、供給能力を超えた注文が殺到し、「限定出荷」(出荷量を制限する措置)が連鎖的に広がるという構造的な問題が生じています。
2. 原薬の海外依存リスク
日本の医薬品原薬は、多くが中国やインドからの輸入に依存しています。
| リスク要因 | 影響 |
|---|---|
| 地政学的リスク | 輸出規制、貿易摩擦による調達困難 |
| 自然災害・感染症 | 製造拠点の操業停止 |
| 物流コスト上昇 | 海上輸送費の高騰、リードタイム長期化 |
| 為替変動 | 円安による調達コスト増 |
| 品質基準の相違 | 各国のGMP基準の違いによる品質問題 |
3. 薬価制度の構造的課題
日本の薬価制度では、後発医薬品の薬価は改定のたびに引き下げられる傾向にあります。薬価が製造コストに見合わない水準まで低下すると、メーカーが製造を維持するインセンティブが失われ、撤退や減産に至るケースが出ています。
2026年度の薬価制度改革では、この問題への対応として「医療上必要な医薬品の安定供給」が3本柱の1つに位置づけられました。
4. 需要の急激な変動
感染症の流行(インフルエンザ、COVID-19、マイコプラズマ肺炎など)は、解熱鎮痛薬や咳止め薬の需要を急激に押し上げます。2025年冬のインフルエンザ・COVID-19同時流行では、再び一部医薬品の供給が逼迫しました。
薬局での具体的な対応策
1. 情報収集の体制構築
医薬品の供給状況は日々変化します。以下の情報源を定期的にチェックする体制を整えましょう。
公的情報源
- 厚生労働省 医療用医薬品供給情報:メーカーからの報告に基づく供給状況一覧(Excel形式)
- 日本製薬団体連合会(日薬連):定期的な供給状況調査の結果を公表
- 各都道府県薬剤師会からの情報提供
デジタルツールの活用
Reimei のようなアプリを活用すれば、成分名や商品名から各メーカーの供給状況を素早く確認できます。卸業者のポータルサイトと合わせて、日常業務の中で効率的に情報を収集しましょう。
2. 処方医との連携強化
供給不足が見込まれる場合は、早期に処方医に情報提供することが重要です。
- 疑義照会による代替提案:同一成分の別規格や、同効薬への変更を提案
- 処方前の情報共有:定期的に供給不足品目のリストを医療機関に提供
- 地域フォーミュラリーの活用:地域で推奨する医薬品リストを策定し、供給安定品目を優先
3. 患者への丁寧な説明
薬の変更は患者にとって大きな不安材料です。以下のポイントを押さえて説明しましょう。
- 変更の理由:「メーカーの製造が追いつかず、全国的に品薄になっている」と具体的に説明
- 代替薬の同等性:「同じ成分で同じ効果がある別のメーカーの薬です」と安心感を提供
- 一時的な措置であること:供給が回復次第、元の薬に戻せる旨を伝える
- 相談窓口の提示:不安がある場合はいつでも薬局に相談できることを伝える
4. 在庫管理の最適化
適正在庫の維持が鍵です。過剰な備蓄(いわゆる「買い占め」)は他の薬局への供給を圧迫し、問題を悪化させます。
- 需要予測に基づく発注:過去の処方実績と季節変動を考慮した発注
- 複数卸との取引:1社に依存しない調達体制
- 在庫回転率のモニタリング:デッドストックの削減と適正在庫の維持
- 近隣薬局との連携:緊急時の相互融通体制の構築
5. 分割調剤の活用
供給不足で全量を確保できない場合、分割調剤を活用する方法もあります。処方日数の一部を先に調剤し、残りを後日供給が確保できた時点で調剤する方法です。患者に再来局の手間をかけますが、治療の中断を防ぐ有効な手段です。
テクノロジーによる解決の可能性
供給不足問題の根本的な解決には、サプライチェーン全体のデジタル化が不可欠です。
リアルタイム需給マッチング
各薬局の在庫情報と処方データをリアルタイムで共有できれば、余剰在庫を持つ薬局から不足している薬局への融通が迅速に行えます。電子処方箋の普及とあわせて、こうしたプラットフォームの整備が期待されています。
AIによる需要予測
過去の処方トレンド、感染症の流行データ、季節変動などをAIで分析し、需要の急増を事前に予測できれば、メーカーや卸の在庫配分を最適化できます。
AI News では、医療分野におけるAI活用の最新動向を紹介しています。テクノロジーの力で医薬品供給の課題解決にどう取り組めるか、引き続き情報を発信していきます。
まとめ
医薬品の供給不足は、製造品質問題・原薬の海外依存・薬価制度の構造的課題など、複合的な要因が絡み合った問題です。一朝一夕に解決するものではありませんが、厚生労働省の行動計画や薬価制度改革により、制度面での対応は着実に進んでいます。
薬局現場としては、情報収集の強化・処方医との連携・患者への丁寧な説明・適正在庫の維持を柱に、日々の対応力を高めていくことが重要です。そしてテクノロジーの活用により、より迅速で正確な対応が可能になることを期待しています。